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『ロスジェネ』をどう味わうか?

 もうさんざあちこちで紹介もされているし、まだまだ勢いはこれからの『ロスジェネ』。編集者松竹さんのブログによると、もう3刷が決定だそうだ。

 ¥1,575でこれでもかと詰め込んだ『思想地図』に比べて、ボリュームは圧倒的に少ないわりに、お値段は¥1,365である。

 だがしかし、カオスと勢いが違うのである。これは優劣の問題では決してない。『思想地図』だって丸山眞男へのふんだんな言及がある一方で『あずまんが大王』のラストを分析した論文(黒瀬洋平さんの「キャラクターが、見ている」)があるなど、相当なカオスであるし、共同討議「国家・暴力・ナショナリズム」や鼎談「日本論とナショナリズム」なども勢いのある議論である。

 が、『ロスジェネ』のカオスと勢いは、何か違うのである。良くも悪くも「泥臭い」のですね。何だか宮本顕治のいうところの「野蛮な情熱」(「敗北の文学」)を連想する――という表現が編集委員の皆さんや寄稿者の皆さんにどう思われるかはわからないだけれど――。

 杉田俊介さんの『無能力批評』について記した折に、「生身のからだの息遣いや匂い」と書いた。それと似たような感覚がある。汗臭さというか泥臭さというか、ためらいやはじらい、怒り、そしてそれらと正面から向きあっていこうとするエネルギーが、カオスと勢いでごちゃまぜになってしまっている。そこが良いのである。いい意味で、整然となんかしちゃいない。

 個別の論考として、10年後もなお生命力を保つだろう、と本屋の感覚としていえるのは杉田俊介さんの「誰に赤木智弘氏をひっぱたけるのか?」(『無能力批評』にも収録)と萱野稔人さんの「なぜ私はサヨクなのか」の二本。特に萱野さんの論考は短いが、左翼とは何か? を考える手がかりとして必須。以前にも記した中島岳志さんの「日本右翼再考」(『思想地図』所収)と対を成す。

 但し、これはそれ以外の部分がダメだとかいう話ではない。比較的独自性が強く、また後々言及されていく可能性が高いテーマと内容、というほどのことである。これはいわば雑誌としての「ロスジェネ」とは別の話。

 で、『ロスジェネ』を「場」として見た場合、「場」の雰囲気を決しているのは、大澤信亮さんの小説「左翼のどこが間違っているのか?」と、増山麗奈さんの見開きの挿絵(p.92-93)であろう。

 大澤さんの小説について何かを触れるのは、怖い。それくらい、すごい。とにかく読んでみてほしい、というだけで精一杯である。
 
 それに、増山さんの挿絵が加わるのである。挿絵というのはもっとこじんまりとしたもので、かつ本文の一場面を切り取ったようなものが一般的だと思うのだが、そんなものは増山画伯には関係がない。本文と密接な関係はあるが、これはもう、独立した作品である。購入してから何度もこの挿絵に見入っている。

 すごい。これを読み飛ばしては雑誌『ロスジェネ』を買った価値は半分しかない。

 まだまだ記してみたいことはあるが、 ひとまずは。

by todoroki-tetsu | 2008-05-31 23:44 | 業界

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