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日記その4

6.徒歩と休息、そして徒歩
 時計は11:00を回ろうとしていた。2時間ほぼ歩きづめである。日はカンカンに照ってきた。
 
 ここから直接海側に回ろうと思っていたのだが、地図で距離を確認すると6キロ以上はゆうにある。これはヤバい、ともと来た道を引き返す。再び野馬追祭の場所のあたりまできて、木陰で一服。一面に広がる馬場をぼんやりと眺める。時間にして30分ほどであったろうか。相変わらず車は見かけるが、人の姿は見かけない。一人だけ、おじいさんが馬場を横切るのを見ただけだ。

 少し気を落ち着けたところで、再び歩き始める。道の駅南相馬を次の目的地にした。ここで昼食をとってさらに海側に行こうという算段。今度は住宅地を通ったせいか比較的人の姿を見かける。スーパーの看板を見かけたので涼んでいこうと思ったら、休業中。流通上の問題なのか、顧客の問題なのかは判らない。あ、喫茶店の看板がある、涼んでいこうと思ったらここもやはり休業中。これも震災が理由なのかそうでないのか、判らない。

 原ノ町駅近くの踏切にまでようやく戻ってくる。だいぶバテてきたが、もうひと踏ん張りと思って歩き続ける。運休しているのが判り切っているのに、踏切で車が一様に一旦停車をしているのが不思議だった。まあ、悪いことではないよな、と思いながら踏切を渡る。ふと目をやったレールを見て、思わず立ち止まる。レールが全て、赤茶けてサビているのだ。普通レールの横はさびていても表面がサビることはない。どれだけの期間列車が通っていないか、という証拠だろう。駅構内には特急列車と普通列車が止まっている。いつからなのだろう。

 踏切を渡って少しすると書店の看板が見えてくる。どうやら閉鎖中のようだが、どうにも気になるので近づいてみた。ガラス窓から店内をのぞくと、什器の中は空っぽで、レジの機械がそのままに残されていた。

 この書店の隣にはハローワークがあった。駐車場には20台くらいの車が止まっている。ちょうどよい、お手洗いを借りようと中に入る。用を済ませ出ようとすると、入口近くに急募の求人が色々と貼り出されていた。コンビニのパートからはじまって裁縫業など色々あったが、一番多かったのは運送関係であった。Jヴィレッジでの仕事もあって、放射線管理手帳の所有と2年以上の実務経験が必須となっていた。放射線検査の補助とか、そういった名目の業務であったと記憶している。月収は18万程度。

 掲示の中で一番月収が高かったのは廃棄物プラント処理の仕事で、30万を越していた。ボイラー技士2級と2年以上の実務経験が必須となっていて、備考欄のところに「業務内容の質問は全てハローワーク経由で。直接の問い合わせには答えません」という趣旨の注意書きがされていたのが目を引いた。一般的にこういうことはあることなのか、判らない。線量に関する報道でよく上げられる地名が勤め先のようではあったのだが。

 道の駅まではもうすぐである。


7.情けない自分
 ハローワークから出てまもなく、中学校があった。そういえば、と福島駅のバス停で「ボランティアで車中泊・テント泊をされる方へ」という貼り紙があったな、と思い出した。中学校の施設を開放していますよ、泊まれますよ、という内容であった。ここのことか、と横を通り過ぎる。おそらくここで避難生活も送られているのだろう、と思われる雰囲気だった。

 ようやく道の駅南相馬につく。12:00を少し回ったくらいか。建物に入らずとも風があるせいか日陰のベンチに腰掛けているだけでも随分と涼しい。ちょうど昼時で食堂が混んでいるようだったから、まずは一休みと思ってぼんやりしていると、右腕が猛烈にヒリヒリしているのに気がついた。

 ただの日焼けである。が、その時に一瞬、「放射線の影響か?」と思ってしまったのだ。バカな話である。確かにヒリヒリするほどの日焼けを一気にしたのは久しぶりだったし、暑さで少し意識がもうろうとしてもいた。しかし、そんなことは言い訳にはならない。どこかで線量のことを、へんな風に意識していたのだろう。そんなわけはない、と即座にもう一人の自分が打ち消したのだが、それでも気になって再び「福島民報」を取り出して線量を確認したりもしたのだった。

 もとより、自分は大した人間ではないことは自覚しているつもりだ。たぶん、付和雷同して平気で人を傷つけることが出来てしまうタイプの卑小さ。それは、まったく矯正できていないのだ。地元の人が多いように思われたにぎわいのある日陰のベンチで、一人で勝手に自分を情けなく思っていた。

 当初僕は今回の南相馬行きについて、自分なりにある程度吟味し、寝かせてから言葉にしようと考えていた。が、こういう自分のいやな、ダメな部分は自戒のためにも早く吐き出しておく必要があると思った。情けないのは今更しょうがないかもしれないが、しかし、ワクチンをつくる努力は自分でしなければならない。恥は恥としてさらけ出さなければならない。隠しだてはなるべくやめておきたい。


8.腹は減る
 いくら情けなくても、腹は減る。とにかく食おう、と食堂へ向かう。太っちょやきそばなるものを食し、隣接する物産コーナーでよつわりパン(生クリームいりアンパン、とでもいおうか)と凍天(凍み餅をドーナツ生地っぽいものにくるんであげたもの)をデザート代わりに食べる。ひたすら炭水化物。ここでしか食べられそうにないものを選んでみたのだが、それはそれでどっかしら観光気分があるのだろうという証拠でもある。いいのか悪いのかは、判らない。

 腹ごしらえをして一服し、再び歩き始める。今度は海の方面へ。13:00少し過ぎである。日差しはますます強くなる。

by todoroki-tetsu | 2011-07-16 17:15

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