伊集院光『のはなし』文庫版の心意気

 すごいことだ、と改めて手にとって感じた。伊集院光さんの『のはなし』の文庫版、「イヌの巻」と「キジの巻」のことである。もともとは単行本1冊、文庫化に当たって2冊になった。

 ラジオで、文庫版特典として写真を入れる、その苦労について語っておられたのは聞いていた。が、実際に手に取ってみるとその苦労っぷりの「半端なさ」がひしひしと伝わってくる。おもしろ写真を何年も前から撮りためていることのすごさ、またそのセレクトの苦労など、心の底から笑うことだけでしか応えることしか出来ないのだけれど、伊集院さんの「笑い」への執念みたいなものを感じる。ある意味でクソ真面目な「理論」をこねくりまわすことよりも何倍も難しいことだと思う。だって、いくら頑張っていても、歯を食いしばっている姿を見せては「笑い」は取れないから。その意味では商人としても笑っているだけではなくて大いに勉強させてもらわねば、と思う。いかにお客様に喜んでもらえるか、あるいはどうしたらカネを払ってもいいと思ってもらえるか、そしてそれをなすためには普段というか日常で何を意識しているかが大事、という意味では通じるものがあるように思えてならない。

 もうひとつ、出版社さんからの事前情報で「イヌの巻」「キジの巻」というタイトルになっているのは知っていた。実際に並べてみてこのタイトルのつけ方はよいなと思った。佐藤優さんが「左」「右」なんてつけたのは、「上」「下」とか「1」「2」だと「上」「1」しか買わないから、という工夫だと聞いたことがある。今回はどなたの発案なのか分からないが、「どっちも買わなきゃ」という気にはなる。それだけではなく、「イヌの巻」の巻末には「なかがきいち」、「キジの巻」の巻頭には「なかがきに」が配置され、もしどちらかしか買っていなかったとしたら「もうかたっぽ買わなきゃ」とおのずとなるのである。あざといと思われる方もいるかもしれない、が、これまた考えられた工夫だなと思う。

 自分が面白いと思うものをどうやって人に伝えるか……そのために考え抜いて作られた2冊。頑張って売ろう。
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by todoroki-tetsu | 2010-04-07 22:58 | Comments(0)

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