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買切品について考える その三

 その一その二に続く第三弾。今までの計算から、粗利4割の買切品を扱う場合、消化率80%の確保というのがひとつの目安になりそうだとおぼろげながら分かってきました。

 しかし、実際には80%の消化率を確保できないことも十分ありえます。そこでリスクヘッジとして考えられる二つの手段に対して、それぞれどのように利益が変化するのかを見ていきたいと思います。今回はすべて買切品Bのみの試算です。

 くどいようですが、基本条件と、委託品Aだけを扱っていて、返品率が50%の場合の〔例1〕を再掲します。〔例1〕を一応の現状と考えています。

〔基本条件〕
・仕入の元手は¥100,000
・委託品A 販売価格¥1,000 仕入値¥770 
・買切品B 販売価格¥1,000 仕入値¥600 
・返品にかかる諸経費 一冊当たり¥50(これは適当。もっと大きいかもしれない)
・仕入にかかる諸経費は除外する(一応取次さん持ちと考える)
・返品/仕入の諸経費ともに人件費は除外
・返品入帖までのタイムラグは考慮外
・消費税は除外

〔例1:委託品Aを100冊仕入れ、これが50冊売れ、残り50冊を返品した場合〕
¥100,000
-¥770×100(仕入)
+¥1,000×50(売上)
+¥770×50(返品入帖)
-¥50×50(返品諸経費)
=¥109,000

 ¥9,000の黒字。

 
1.仕入条件が変わらぬまま、仕入金額の10%の返品条件が付いた場合 
〔例13 買切品Bを100冊仕入れ、70冊売れ、残部を返品条件と除却で処理した場合〕

¥100,000
-¥600×100(仕入)
+¥1,000×70(売上)
+¥600×10(返品条件分の入帖)
-¥50×10(返品諸経費)
-¥600×20(残部除却)
=¥103,500

 利益は¥3,500。目標とすべき消化率80%が達成できなくても、1割の返品条件があれば消化率70%でもギリ赤字にはならない、というくらいでしょうか。

2.仕入条件が変わらぬまま、残部については本体価の10%の歩安入帖となった場合
〔例14 買切品Bを100冊仕入れ、70冊売れ、残部を10%の歩安入帖で処理した場合〕

¥100,000
-¥600×100(仕入)
+¥1,000×70(売上)
+¥100×30(10%の歩安入帖)
-¥50×30(返品諸経費)
=¥111,500

 利益¥11,500。たった10%の歩安でも返品出来るとデカい。「歩安入帖か……。厳しいなあ」なんて思ったことが少なからずありましたが、除却のことをちゃんと考えれば歩安でも入帖して頂けるならそれに越したことはない。当たり前ですね。

〔例15 買切品Bを100冊仕入れ、60冊売れ、残部を10%の歩安入帖で処理した場合〕
¥100,000
-¥600×100(仕入)
+¥1,000×60(売上)
+¥100×40(10%の歩安入帖)
-¥50×40(返品諸経費)
=¥102,000

 〔例14〕よりだいぶ利益は減っていますが、10%の返品条件だと消化率70%がほぼギリギリで赤字にならないラインだったことを考えれば(〔例13〕参照)、10%の歩安入帖のほうがまだ持ちこたえられます。

 こんどは、もう少し本屋にとってもう少しいい返品条件、本体価格の30%の歩安入帖だった場合を計算してみます。

3.仕入条件が変わらぬまま、残部については本体価の30%の歩安入帖となった場合
〔例16 買切品Bを100冊仕入れ、50冊売れ、残部を30%の歩安入帖で処理した場合〕

¥100,000
-¥600×100(仕入)
+¥1,000×50(売上)
+¥300×50(30%の歩安入帖)
-¥50×50(返品諸経費)
=¥102,500

 30%の歩安入帖であれば、消化率50%でも赤字にはならないな、ということが確認できます。でも〔例1〕を考えれば、委託品Aだけを商いをしていれば消化率50%でも¥9,000の利益が出ます。「うまみ」はないです。

もう少し売れたとしてみましょうか。

〔例17 買切品Bを100冊仕入れ、60冊売れ、残部を30%の歩安入帖で処理した場合〕
¥100,000
-¥600×100(仕入)
+¥1,000×60(売上)
+¥300×40(30%の歩安入帖)
-¥50×40(返品諸経費)
=¥110,000

 黒字¥10,000。〔例1〕の利益¥9,000より売上は50冊→60冊になっているのですから、利益は増えて当たり前ではあります。しかし、委託品Aだけを60冊売った方が当然書店に残る利益は大きい。まあ、このへんはあまりつっこまないことにしましょう。ここでは、消化率を50%から60%にあげないと現状並みの利益は出ませんよ、ということだと解釈しましょう。

 もうお気づきだとは思いますが、粗利40%の商品で「残部については本体価の30%の歩安入帖となった場合」というのは、35ブックスに近い条件です。

 35ブックスについては、例えばこちら。「ポットの日誌

 35ブックスのアイテムについてはこちらが分かりやすそうです。「復刊ドットコム」の特集ページ。でも漏れているものもあるかも?

 消化率を上げよう、と思わせるアイテムがどれだけあるのか、という問題はある。「仕入精度」を考えるのであればやはりここは重要です。今売りたいと思う商品かどうか、そうでなければ条件がどうあれ食指は動かない。だって、そもそも売れないんだから。前年比を使うのはあまり好きではないが、でも前年比増なんてまずないんだから。

――余談ですが、これは単品レベルでの報奨金についても言えます。報奨金がつくなら頑張ろう、と思える商品とそうでない商品がある。それは商品が一般的にいってどうこうというよりも、自店の客層にあっているかどうか、で判断せざるを得ないし、そこを間違えると本当にからきし売れないからです。いくら報奨金をつけてもらったって売れなきゃしょうがない。そうゴリ押しされることはあんまりないけれど、売れないから報奨金でなんとかしようとしているんじゃないかなあ、なんてうがった見方も最近はしたりすることもあります。ありがたいと思う反面、報奨金に回すカネをもっとお客様にあるいは著者に還元してほしいとも思います――

 でも、勿論35ブックスのような試みが大事なのはいうまでもありません。やってみないことには何も変わらないし、分からないから。ひとまずは出版社さん主導でこういう試みだった(である)訳ですが、じゃあ、書店側が主体的に考えて動いていくとしたらどんなやり方があるだろう?

 リスクを取らねば利益は出ない、みたいなことをよく強調されているのはユニクロの柳井さんであったか……、さあ、どんなリスクを想定すべきか。

by todoroki-tetsu | 2010-03-30 22:37

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