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浅尾大輔『ブルーシート』読了

 小説は普段読むことがない。一時期は伊坂幸太郎さんが好きで、別に今も嫌いなわけではないのだけれども、なぜかここ最近の新刊は買ってもそのまんまになっていたりする。

 だが、なぜか浅尾大輔さんの『ブルーシート』は買って早々に一気に――といっても通勤時間や休み時間だけれど――読み終えた。「ロスジェネ」などで浅尾さんが繰り出される言葉には好感も持ち、また信頼もしているのだけれど、小説となるとどうだか自分にはよく分からない、というのが読前感。まあ、どんなもんだか読んでみようか、という軽い気持ち。

 書店員的な感想を言えば、「こ、このカバーは!?」であろうか。まだお手にとって無い方はぜひ手に取ってみてください。これは非常に好きな意匠。

 「ブルーシート」だけは雑誌掲載時にさっと読んでいたが、やはり雑誌で小説を読むことに僕は慣れていないらしく、ほとんど別の作品を読むような感覚で読み始めた。他に収録されている「ソウル」「永遠の明日の国」「家畜の朝」はいずれも未読。

 「戦艦ポチョムキン」を何となく連想したのはなぜだろう? モンタージュだなんだというのは僕にはよく分からないし、そもそも「ポチョムキン」だってそう何度も観たわけでもない。本当に、何となく。

 いろいろな人物、その状況、思いが時間を前後するようにしながらぶつ切りになっているようでいてどことなくつながっていく。カチッとパズルのようにすべてがはまるわけではない(ように思える。本当はすべてがはまっているのかもしれないけれど)。それがまた何だか独特の読中感と読後感を引き起こす。

 小説を繰り返しよみたいと思うことはそうそうないのだが、通読し終えた今、さっそく再読したい気持ちになっている。

 「貧困文学」というのがどうやらキャッチコピーのようだ。それは当たっているのかもしれないが、「リアリズム文学」といったような表現のほうがよりしっくりくるように思えた。別に声高に「反貧困」を叫んでいるわけではないし(そうしたことが悪いわけでは決してない。作品として成り立っていればそれでいいのだ)、かといって「この人はどうやってメシを食ってるんだろう?」と思ってしまうような意味での「浮世離れ」した人物が出てくるわけでもない。何かこう、ザラついた生々しさ――それをリアルといってよいのであれば、まさに「リアリズム小説」である。

 どれも面白いと思ったけれども、一番は「ソウル」。言葉の強さを特に感じた作品だった。小林多喜二の「東倶知安行」をちらと思い浮かべたのは、さあ、見当違いか存外当たっているのか……どうだろう? 初出は「民主文学」だそうだ。「なかなかやる雑誌なんだな」(失礼!)と思ったりも、した。

 まだ不思議な読後感に包まれているのでなんだか変な気分なままだけれども、えっらいこと重厚長大な長編を読んでみたいな、とも思った(今ふとイメージするのは野上弥生子さんの『迷路』)。何年先になるか分からないが、待とう。

by todoroki-tetsu | 2009-11-07 01:03 | 文学系

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