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考えたい異見

 色んな意見がいっぱいあるのは本屋としてはありがたいことで、建設的な論争は活発にあったほうが本は売れる(ような気がする)。この10年、出版市場がずっと落ち込んでいるのって、「商品」としての本をめぐる環境が変化しただけではなくて、言論というか論壇の変化みたいなことの表れだったりもするんじゃないだろうか? いわゆる「大きな物語」と本の売れ行き、ビジネス書/社会科学書分野はすごく密接に関わっている(ような気がする)。

 今、出せば売れる、という著者はビジネス書/社会科学書ではあんまり思いつかない。そこそこに売れる人は結構それなりにいるけれども、バカ売れはあんまりない。出せば売れる、という人で強いてあげればいなくはないが、さて、1年後はどうでしょう? とも思う。

 なので、本屋としても著者頼みじゃなくて、ちゃんと議論の流れというか、まあ、流行といってしまえばそれまでだけれども、ある程度トピックとして意識しておきたいと思っている。そうやって棚を作ったり提案していくことで、少しでも幅が広がっていかないかな、と。

 かといってマッチポンプのようなことは嫌なので、慎重に考えなければならない。

 そんな中、ここ数日で急に目に留まったのが、『蟹工船』ブームへの「異見」。

 その一。今週の「週刊文春」(7/3号)の宮崎哲哉さんの「仏頂面日記」は、「うっかり『蟹工船』を読んでしまった君に勧める『次の』映画および小説」という一文から始まっており、実に面白かった。詳細はぜひ手にとって見ていただきたいのだが、そうか、笠井潔さんの『バイバイ、エンジェル』を並べてみようか、と仕掛け欲が刺激される。
 
 その二。6/27の「毎日」夕刊での澤地久枝さんのインタビューの中には、『蟹工船』を今共感して読むことへの違和感が率直に表明されている。今がそれだけ貴重な時代なのだ、ということが主旨だと思うけれども、宮崎さんの指摘とはまた違った観点での異見でこれも興味深く読んだ。

 こうした異見を踏まえつつ、『蟹工船』を今提案する意味をちゃんと考えなければと思っている。どうするか、どう出来るかはまだ分からないが。

 
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by todoroki-tetsu | 2008-06-29 22:30 | 業界 | Comments(0)

「ロスジェネ」イベントに行ってきた

 「ロスジェネ」イベントに行ってきた。本田由紀さんと上野千鶴子さんのイベントと実は結構迷ったのだけれども、結局世代の近さとなんだかよく分からないことが起きそうだという期待でこっちにした。萱野さんのお話だとなんでもマイケル・ハートさんの講演会もあったそうで、いやあ、なんとも盛りだくさんな日だったのですね。

 「思想地図」のイベントとも同じくいろんな人がいろんなことを書くと思うので、本当に思いつきだけを。

 ひとつ。緊張した感じの出演者が少なくなく、そのぎこちなさというかドキドキ感が伝わってきた。それはけっして嫌な感じではなくて、いい意味でそのぎこちなさというか緊張で、新鮮だった。もっと小規模な会場だとまた違ったのだろうけれども、多分キャパは400人くらいの会場で、300人くらいは埋まっていただろうか。その規模で緊張を共有できたのは面白かった。もちろん、これは僕が同世代だからだったかもしれない。他の方の感想を伺いたいところである。

 ふたつ。今色々何問題がある中で、例えば階級論のように言われているが、じつは世代間格差の問題ではないか、という提起。これは東さんが口火を切った話題だったと思うが、興味深く思った。次の「思想地図」も「ロスジェネ」も、上の世代と下の世代との接点を増やそうとしているとのこと。どちらも次が楽しみ。

 みっつ。最後にサイン会があり、8人全員が並んで座っていたのだけれども、すごく和気あいあいとしてほほえましかった。大澤さんが締めの言葉で、「色々と違いはあるけれども、対話の場が必要」と強調されていたのが大変心強かったのだが、まさにそれが目の前に光景として現れたような気がして、すごく和やかな気持ちになった。

 先日の「思想地図」のシンポジウムも面白かったけれど、難しいな、という感じが終演後の感想だった。今回は、なんだかよく分からないが、心があったかくなったというか、不思議な感覚で会場を後にした。
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by todoroki-tetsu | 2008-06-28 00:16 | 業界 | Comments(0)

爆笑のうちに読了。松本哉『貧乏人の逆襲』

 松本哉さんの『貧乏人の逆襲』を読了した。

 これはですね、電車でよんじゃいけません。結局半分くらいは通勤電車の中で読んだのだけれども、思わず声に出して笑ってしまったこと3回。声を殺して腹筋を攣ってしまったこと5回。ひざから崩れ落ちたこと2回。あとの半分くらいは風呂で読んだのだが――半身浴で一リットル弱の水を飲みながら本を読むのが日々のリラクゼーションなのです――、笑い声を一人ユニットバスに響かせること無数。

 底抜けに明るくて、元気が出る。世の中のことを色々と真面目に論じている本は山ほどあって、そうした本はそれで大変好きだし、大事だと思うけれど、この松本さんのパワーは全然すっ飛んでいて最高。

 全編にわたって読みどころ満載なのだけれど、僕が一番笑ったのはP.116-117の「3人デモ」と「恐怖! すっぽかしデモ」のところ。これはもう最高としかいいようがない。

 僕はサラリーマン書店員であって、一応は正社員でもあって、本当はもっと考えなきゃいけないというか、この本をただ笑うだけじゃなくてちゃんと受け止めなきゃいけない部分は大いにあると思う。とりあえず、もっと自分の職場を面白くしよう、自分だけがというんじゃなくて、みんなで盛り上がれるような職場にしたいな、と思う。

 こうしたパワーは、やはり運動というか、何か実際にやってる人だからこそ持つものなのかもしれない。雨宮処凛さんもこの本の巻末で対談していらっしゃるが、何か明るいのですね。ここに僕は救いというか、展望があるような気がしている。『思想地図』のような取り組みもすんごく大事で、優劣ではないということを断った上で、松本さんのようなパワーがすごく必要なというか、求められている気がする。

  さ、いよいよ今日になった「超左翼」の「ロスジェネ」イベント、どんな様子になるか楽しみである。
 
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by todoroki-tetsu | 2008-06-27 00:17 | 業界 | Comments(0)

永山則夫『無知の涙』読了

 読み終えて気づいたのだが、つい先ごろ購入した『無知の涙』、「2008年6月20日 16刷発行」と奥付にある。このタイミングでの重版、それだけ注目が高まっているということなのだろうか。

 巻末に収録された秋山駿さんの「ノートを読んで」でも指摘されているが、この本は詩集という印象が強い。短歌詩もあるしエッセイもあるし、雑記文章もあるので、詩ばっかりなのではない。けれども、全体として詩という印象を受けるのである。

 例えば、散文ではあるけれどもこんな節。

 ある日と永遠のなかでのこと――『ぼくは鯨の背に乗って呑気に世界旅行している際〔最〕中、食物が無くなった! 数日の目まい、かわき疲れ、食物への幻覚……、ぼくはこまりにこまった。そこで鯨に話すことにした。「君を食べていいかい……そのう……つまり……」鯨は超音波でぼくの脳波にこたえた「仕方無いよ」と一言だけ。もっと言って欲しかった……。ぼくは最初は遠慮して少しづつ、ほんの少しづつ背中から喰っていった。呻(な)かなかった。鯨は何も言わなかったのだった。そして毎日が経過していった。当てのない世界旅行! ぼくが背中を喰っていって、それが大変悪辣極まる事だと気がついた時!! 鯨の三分の一を喰っていた。ぼくは鯨に謝った。鯨は…………何も言わなかった。鯨は屍体だったのだ……。ぼくはその日から孤独になったのだった。生きる事の無意味さを悟る時、ぼくは自分の喉に、それまで鯨を苦しめたナイフを刺していた。ぼくの脳味噌から最後の一滴の血がひく瞬間、鯨とは自分自身の精神と悟るのであった。』
       ――死する者より・その三十五――「逆説のある考え」(P.284-285)
  
  
 散文詩、というのが僕はよく分からないし、そうした思いでつづられたのかどうかも知らない。でも、イメージはまさに詩というにふさわしいと思う。

 一読者としては確かに興味深く読んだし、意義のある著作であると思う。では、一応はプロの書店員の端くれとして、どんな提案をお客様にしていけるのだろうか? と考える。

 杉田俊介さんの『無能力批評』、特に「自立と倫理」、「[無能力批評A]『フリーターズフリー』創刊号に寄せて」を連想し、それらから、今『無知の涙』を読む意味を探ることが出来ないかと考える。

 ひょっとすると、「食物」という言葉から、『寄生獣』論や「あんぱんまん」への言及を僕がただ勝手につなげているかもしれない。あるいは、「ぼく」と「鯨」との関係から、「他者」について論じている部分を僕が表層的に解釈しているだけなのかもしれない。

 もう少し考える。

 「文化系トークラジオLife」の議論が白熱してきたのでひとまずここで。
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by todoroki-tetsu | 2008-06-23 02:43 | 業界 | Comments(0)

松本哉『貧乏人の逆襲!』

 重い事件があったせいにしてはいけないのだが、記すのが遅れてしまった。松本哉さんの『貧乏人の逆襲』である。

  引き続き『無知の涙』に集中しているため、まだざっと一通りページをめくっただけである。が、巻末の松本さんの年譜(p.181-189)だけでももう楽しくなってくる。

 昨年紀伊國屋ホールの「生きさせろ!集会」で松本さんを見た時は強烈だった。あのテンション、周りをどんどん巻き込んでいくパワーに圧倒。冷静沈着な印象のある小熊英二さんが随分と興奮していらしたのがとてもほほえましい光景として記憶に残っている。
 
 自分たちで色々やっていこうじゃないか、という気持ちが伝わってくる。ようやく入荷した毛利嘉孝さんの『はじめてのDiY』 とあわせて読み、棚を作っていってみたい。
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by todoroki-tetsu | 2008-06-21 23:58 | 業界 | Comments(0)

永山則夫『無知の涙』を読み進める

 永山則夫氏の『無知の涙』を読み進めている。
 
 秋葉原の事件と関連して論じられることが多いようだ、とある編集者の方から教えていただいたのと前後して、6/17の「毎日新聞」夕刊にて大塚英志さんのインタビューを読み、これは読まねば、と思って、今半分くらいまで読み進めている。

 僕は気になった箇所のあるページの下の端っこを折る癖があるのだが、折り目だらけになってきた。

 折り目をつけたページから、ふたつほど。

 「この一〇八号事件は私が在っての事件だ。私がなければ事件は無い、事件が在る故に私がある。私はなければならないのである。今考えて、あの時期に、四人を殺してしまう以前に、考える事は出来なかったのか? あったのだ! しかし、死刑になるなら自殺した方が最良だと考えた訳である。自殺は出来なかった。理性をもって考えたのに、自殺は出来なかった。世論の同情する私であるために出……来……なかった……」
   ――死する者より・その二十四――「個人的凶悪犯心理の研究から」
(p.250)

 「とうとう真心のある恋愛はできなかった。テロリストと自称する私には矛盾する出来事でもあるが本能上の問題で人間には避けられない事実だと思う。夢で、空想でそれはそれは憧憬の的だった。貧乏人でなかったら華燭の典を行なえる恋愛ができたろに、否、差別のあるこの日本でないのなら、社会主義の日本だったらば、自然にして普通の恋も人生も送れたろう」
             ――死する者より・その三十八――「叱られる?」 
(p.310)

 いずれも1970年に記されている。

 安易に今とつなげるのは間違っているのかもしれない。

 でも、時代が違う、では済まされない何かがあるような気がする。読み進めながら、もっと考えてみたい。
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by todoroki-tetsu | 2008-06-21 00:54 | 業界 | Comments(0)

『思想地図』発刊記念シンポジウムに行ってきた

 紀伊國屋サザンシアターで行われた『思想地図』発刊記念シンポジウム、「公共性とエリート主義」に行ってきた。

 多分いろんな人がいろんなことを書くだろうと思うので、ひとつだけ。

 秋葉原の事件について、姜尚中さんが繰り返し触れていたことと、鈴木謙介さんが積極的には触れなかったこと。
 
 自分のフィールドである政治学の枠組みを慎み深く用いながら議論する姜尚中さんと、展望をなんとか見出そうと必死だった鈴木謙介さん。

 このお二人の姿が一番印象に残った。他の皆さまが何か不真面目だったとかそんなわけでは決してない。そういう意味ではない。北田さんの冒頭の問題提起、東さんと宮台さんの白熱した議論も大変興味深かった。

 そんな皆さまをおさえてなお、言葉の裏に抱えている「思い」がいっそう伝わってきたのが姜尚中さんと鈴木謙介さんだったのだ。

 安易にこんな言葉を記したくはない。でも、このお二人のおかげで、少し展望――漫画版ナウシカ的な意味での「光」――が見えた気がする。

 来週のロスジェネのイベントはどんな様子になるのだろうか。

追記
 今しがたNEWS23で鈴木謙介さんが座談形式で話しておられた。本当に自分の問題として考えていらっしゃるのだ、と思う。そうか、だからこそあえて語らなかったのだろうな、などと愚考する。もちろん、だからといって姜尚中さんが……というわけではない。世代の差による捉え方の違い、というだけであって、その真摯さには変わるところはない、と思う。

 次回の文化系トーク系ラジオLifeは重いかもしれない。でも、今までにもまして絶対に聞かねば、と思う。必ず、リアルタイムで。

 
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by todoroki-tetsu | 2008-06-17 00:39 | | Comments(0)

秋葉原の事件・爆笑問題太田さんのコメント

 今しがた、爆笑問題の太田さんがTBSラジオ(日曜サンデー)で秋葉原で先週起きた事件について20分弱、しゃべり続けていた。

 「自分の中にある怪物」と「それを冷静に見ている自分」との関係、人とつながっていなかったのではなくて自分の中でつながっていなかったのではないか、など、興味深いコメントだった。

 その中で、ケータイサイトでの「ノーリアクション」という問題に触れたくだりにハッとさせられた。太田さんの発言をかいつまんで記す。テープにとったわけではないので、微妙な違いはあるかもしれない。あらかじめ御寛恕願います。

 「ノーリアクションなんて当たり前だ。芸人としてもそういったことはいっぱいあるし、例えば信仰している人を考えてみよう。神様からのリアクションなんてありゃしない。そればかりか災害まで降りかかる。それでも祈る。そうした苦しみの中で生きている人がいるということを想像することが出来れば、自分の苦しみが自分だけじゃない、と想像できれば、もっと違ったかもしれない」。

 また、「こんなことがおきて、これはどうだとかあれはどうだ、とか今いえる訳がない。え、ちょっと待って、考えさせて、というしかないし、それが正しいと思う」とも。

 連想することが二つ。

 ひとつは、秋葉原の事件が、若い人、例えば今20歳の人、あるいはもっと若い人がどう見ているのか、あるいはどのようにこれから捉えていくのか、ということ。
  
 もうひとつは、太田さんが信仰にふれたくだりから、大澤信亮さんの小説「左翼のどこが間違っているのか?」とヨブ記を想起したということ。これについては以前少し記したけれども、「苦しみ」をどう捉えるのか? という問題(こんな単調な言葉でしか僕は記せない)。浅尾大輔さんのブログでもほんの少し触れられている。杉田さんの『無能力批評』にもつながるイメージだろうか、とも思う。

 もちろん、被害にあわれた方、そのご家族や友人・知人の方の無念さははかりしれないだろう、と思う。通り一遍のことを言うのはかえって失礼かもしれないが、被害にあわれた方のことをも記さないわけにはいかない。何であんな目にあわなきゃいけなかったのか。こんな理不尽な話はありえない。

 こんな時、本屋は何をすべきだろうか?
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by todoroki-tetsu | 2008-06-15 13:57 | 業界 | Comments(0)

この心意気はよいと思う

 結局仕事の関係でいけなかった、本田由紀さんと広田照幸さんのイベント

 どんな様子だったのかはおいおい聞いていくとして、学生さんを無料にしたのはすばらしいと思う。

 提案者は三省堂さんなのか、出演者なのか、出版社さんなのかはよく分からないけれども、こうした書店でのイベントでの学生無料というのは珍しいのではないだろうか。

 6/27のイベントではどのようにされるのかは分からない。学生さん無料なんてそうそうできることではないので、次回もと期待するのは無理というものであろう(もし誰にとっても無理のないような形であればもちろんそれに越したことはないけれど)。

 結果集客に寄与するものであったのかは分からないのだけれども、こうした心意気は大事だと思うし、また、業界にいる者のはしくれとして、こういうことを忘れてはいけないように思う。

 僕は単純なのだろうか? こうした取り組みを見ると、「(自分の店以外では)なるべく三省堂さんで本を買おう」とか、「本田さんと広田さんの本をしっかり売ろう」とか「双風舎さんの本を売りたい」などと思うのである。
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by todoroki-tetsu | 2008-06-15 11:04 | | Comments(0)

藤田省三『精神史的考察』再読

 フェアをやる関係で、藤田省三さんの『精神史的考察』を読み返す。

 「……生き方についての精神的骨格が無くなった社会状態は十分な意味ではもはや社会とは言い難い。一定の様式を持った生活の組織体ではないからである。それはむしろ社会の解体状態と言った方がいい姿なのである。そうして、そういう時にこそ得てして社会の外側から『生活に目標を』与えてやろうという素振りをもって『国家のため』という紛いの『価値』が横行し始める。そうなると社会の再生はひどく難しくなる。国家とは機械的な装置なのだから、『国家のために生活する』ということは即ち生活が機械的装置の末端機関と化すことを意味するだけである。生活組織と生活様式の独立性はここでは崩れ去る他ない」(P.12)

 上原専祿が「地域の地方化」という問題を提起していたことを前に記したが、ここでいう「社会」なり「生活」なりという言葉と「国家」という言葉との対比と通じるものがあるように思う。

 他にも、「松陰の精神史的意味に関する一考察」「戦後の議論の前提」など、興味の尽きない論考が。「モダン・クラシック」のお手本のような本である。新しい本もしっかり追いかけたいのだけれども、こういうものもしっかりとフォローしておきたいものだ。
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by todoroki-tetsu | 2008-06-13 00:13 | 業界 | Comments(0)