グスコーブドリ私論(3)

3.ブドリを読む自分を見つめてみる

 ブドリに感じる魅力を、仮に必然という言葉で記してみた。では、僕はいかに読んできたのだろうかと振り返ってみる。

 本当に文字通り何度となく繰り返し読んでいるのでその逐一は覚えていないが、少なくとも意識して読み返そうと思った幾度かは、何かに悩んでいる時であったと記憶している。何か問題に直面した時、自分はどのような道を選ぶべきか、そんなことを考えながら読んだことがあった。

 しかし、読後自分の具体的な行動に何か活かした/活かせたかというと、そうした記憶はあまりない。どちらかというと、「ブドリにはなれなぇなぁ」という挫折感のほうが強いのだ。人間、あんな風に生きられるだろうか。ブドリのような生き方=死に方が出来ればいいと思う。あこがれる。けれど、現実の僕はそうは出来ていないし、出来る気がしない。あんまり考えていると挫折感で日常に支障をきたすから考えないでおこう、でもある時ふと思い出したように手にとって、その場だけは目頭を熱くしてみたりなどしてカタルシスを得てみるけれど、結局自分の何も変えようとはしないのだ。ブドリの物語を何度読んでも、ブドリと僕との距離はいっこうに縮まらない。よだかの星のように、遠くて高いところにブドリは在る。

 結局のところ、僕はブドリの物語を都合よく消費しているだけなのではないか? そう思うと、いささか後ろめたい気分になってくる。どうにも失礼だという気がしてくる。

 思考を少し進めてみる。ブドリと、その物語を読む自分との距離が離れていることが問題であるならば、道はふたつしかない。本気で心底ブドリになりたいと目指すか、ブドリと自分とのあいだの距離はいったい何なのかを考えるか。四半世紀の経験から、ブドリにはどうやらなれそうにもない。なので、ブドリと自分とのあいだにあるものについて、考えてみることにする。

 アプローチは二つ。ひとつは、高くて遠いところに在るブドリを見上げている僕自身が、何を見ようとしているかを考え直してみること。ブドリの物語を読んでいると見せかけて実は、自分の見たいもの/読みたいものだけを見、読んでいるだけではないのかと疑ってみることだ。

 もうひとつは、高いところに在るブドリとそのまわりに、もっと目を凝らしてみること。言い方を変えれば、意地悪く読んでみるということだ。読んでいるうちに惹きつけられた必然の甘美な魅力を、断ち切ろうと試みることだ。
 
 第一のアプローチについては、「2.ブドリの必然」で記した僕自身の物語の読み方、力点の置き方でもって既に無意識のうちに答えを出してしまっている。ブドリの死に方に、僕は明らかに心惹かれている。出来るなら、あのような死に方をしてみたい。そう欲望している。

 これはどうせなら誰かの役に立ってみたいものだ、という、わりあいに素朴な感情から欲しているわけではないように思われる。役に立ちたいと願うなら、それだけを欲するなら何も死ぬことはないのだから。生きつづけて他者の役に立つようなことをし続けることが考えられてよい。けれど、生き延びるブドリを考えることはなかなかに出来ない。いや、しようとしていない。

 ブドリの死は必然である、と僕は読んだ。ここには強いられたという意味での必然よりも、自ら選び取った結果としての必然、という意味合いのほうが強い。この必然には、明らかに意味がある。自分と他者を生かすために身を投げ出したブドリの死が無意味であるはずがあろうか。意味のある死を迎えることが出来たのであれば、それはすなわち意味のある生であったということにはなるではないか? そして死んでしまえば、その意味は、たとえ忘れ去られることはあったとしても貶められることは、ない。

 こんな程度のことは、もっと高度で緻密な評論で既に言われていよう。だけれど今大切なのは、他ならぬ僕自身が何をブドリの物語に欲望しているのかを見つめることだ。

 繰り返そう。ブドリの死は必然に裏打ちされた意味のある死であり、その死には意味があり、死に意味があるということは翻ってその生に意味がある――そのように僕は読んでいる。そしてそのようにブドリの物語を読む僕自身は、意味のある死へのあこがれを抱いている。そしてさらに言うならば、意味のある死さえ迎えることが出来れば、たとえそれまでの生が無意味だったとしてもその死に様でチャラにすることが出来るのではないかとすら考えているように思えるのだ。

 意味のある死への欲望を、ブドリを読む自分の中に見出す……これはいったいどういうことなのか。そのことを考える前に、もうひとつのアプローチ、高いところに在るブドリとそのまわりに、もっと目を凝らしてみよう。
 
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by todoroki-tetsu | 2011-10-16 00:08 | 批評系 | Comments(0)

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