渡辺一夫「月に吠える狼」

 今朝は電車で出勤した。たった二日ぶりのことだが、ずいぶん久しぶりに電車に乗った気がする。

 
 通勤時間で本が読めるな、と思った。宮沢賢治にしようと思ったのだが、その前にふと目に入った『渡辺一夫』(ちくま日本文学全集、品切れ)を思わず懐にしのばせた。


 僕は、仰いでみる明月に、思わず叫びたくなった。誰にも判らぬ、僕自身にも判らぬ。しかし月だけに判る叫びをあげたくなった。征く人々はあの皎々たる明月だ。そして、叫ぶ僕は狼だ。ただ狼は狼でいる間だけは狼の営みを十全にはたすべき以外に道はないのである。専門と定めた題目の肉をくらい骨をしゃぶり尽くしてやらねばならない。しかし、今夕の月は、いかにも皎々としていた。



 冒頭に収められた「月に吠える狼」と題する随想の締めくくりの部分。昭和18年11月12日の日付である。


 だからどうした、と言われればそれまでだ。だが、なぜだか、迫ってくるのだ。自らを「狼」と称さざるをえなかった渡辺一夫の気持ちを理解できるとは思わない。そんな不遜な思いは抱けやしない。それでも、なお。




 
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by todoroki-tetsu | 2011-03-16 21:57 | 文学系 | Comments(0)

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