人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『森林と人間』をビジネス書として読む

 かつて自分が住んでいたところに程近いこともあって、石城謙吉さんの『森林と人間』を手に取ってみた。苫小牧研究林(旧名苫小牧地方演習林)のお話である。

 自然科学の話は正直さっぱり分からないが、たまにこうした本を読むとまったく未知のことばっかりで実に楽しい。この本については地の縁があるので必要以上の親しみを覚えて一気に読了した。

 中央集権的な時々の施策で荒廃してしまった森を、熱意と信念でよみがえらせていく姿。石城さんの筆致は極めて冷静であるけれども、大変な苦労をされたのだと思う。が、一方で森に適切な手をいれ、スタッフや市民の皆さんと一緒に取り組まれる描写は本当に楽しそうだ。

 こんな節がある。森づくりの方針をしっかりと定め、具体的な手立てを講じていった時のこと。今までスタッフが行っていた間伐(人工林を育てるために不可欠なのだそうです)を、スタッフの力をもっと別のところで発揮してもらいたい、との考えから「立木処分」(スタッフが選定した間伐木をそのまま売却し、業者さんに伐採してもらう方法のことだそうです)で進めたら、

 「この立木処分に対して、苫小牧では細いカラマツを大根よりも安く売っている、という笑い話が聞かれた(中略)。このことは、苫小牧地方演習林の森林施業全体が、天然林の大木を盛大に伐採するのが立派な林業で、貧相な広葉樹林や人工林で収入も上がらぬいじましい択伐や間伐を繰り返しているのはとるに足らぬ林業、という当時の評価の中で進められていたことを示している。それにもかかわらず、職員・作業員が意気軒昂として仕事を続けられていたのは、荒廃した森を自分たちの手で甦らそうとしている誇りがあったからだと思う」(P.105)


 誇りとかやりがいとかいった言葉は時として危険だけれども、こうした誇りは比較的まっとうなものだろう。

 明確な目標、目標の社会的正当性に裏打ちされた現場の力、といったところがポイントだろうか。ビジネス現場でも十分当てはまるというか、学ぶべきところだと思う。

by todoroki-tetsu | 2009-01-30 23:59 | 運動系

<< 年表の迫力。『戦後日本スタディ... 本山美彦×萱野稔人『金融危機の... >>