山上たつひこ『光る風』

 噂には聞いていた。ちくま文庫に入った時にちゃんと手に入れておけばよかったのだが、気付いた時にはあえなく版切れていた。

 10代末期、『がきデカ』にはまった。漫画で笑うことはもちろんいっぱいあったはずだが、文字どおり腹を抱えて笑ったのはこれが最初だった気がする。

 昔はシリアスな作品を書いていた、とは当時から母親から聞いてはいた(うちの母親はいまだに虫プロが出していた「COM」を全巻大事に取っている)。が、山上たつひこさん=ギャグ、の印象が強烈過ぎ、さかのぼる気になったのはもっとずっと後のことである。で、気づいた時にはもう版切れ、と、まあ、そういう次第であった。

 『光る風』復刊を知ったのも、出てからしばらくしてからであったし、実際に読んだのはつい最近。

 いや、すごい。1970年に「週刊少年マガジン」に連載されていたという。時代は安保一色だったのかどうかは分からないが、しかし、それなりに「政治の季節」ではあったのだろう。サスペンスとしても読めるし、痛烈な社会批判とも読める。なにより、面白くてやめられないのである。連載漫画の「ワクワク」――木村俊介「漫画評論では分からないもの」(「小説トリッパー」2008年秋号)に教わった概念――とはこういうものなんだな、と思う。

 一番びっくりしたのは堀田という存在。色んな人にワクワクして欲しいと思うので、詳細は書かない。サワリだけ。

 「なるほど きみや社会主義者からみれば/おれたちのいう社会的平等も/きみたちのいう社会的平等も/どこに かわりがあるのかと思うだろう/だが――ちがうんだ/理屈としてはそうであっても/ちがう!/きみたちのように“正常”な人間として生まれ/“正常”な環境でそだった人間と/おれたちのように奇形人としてこの世に生まれてきたものとでは/平等ということばの感覚そのものがちがうんだよ」(P.270-271)

 これに続く彼の肉声に僕は衝撃を受ける。オビにある「“明日の日本”を予見した衝撃のポリティカル・フィクション」の惹句は伊達ではなかった。
 
 息長く売っていきたい一冊である。
 
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by todoroki-tetsu | 2009-01-12 11:23 | 業界 | Comments(0)

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